研究概要 |
平成10年度は,平成9年度の研究で不十分な点を補うとともに,電子移動の起こり易さやナフタレン環2,4位での結合の起こり易さと[3+3]光環化付加反応との関係を整理し,次の知見を得た。 1. アルキルベンゼンから1,8-ナフタルイミドの励起一重項状態への電子移動反応から[3+3]環化付加反応が進行している可能性を検討するために,それぞれの反応系の光電子移動に伴う自由エネルギー変化ΔGの値を求め,その系で観測される[3+3]環化付加反応及び水を組み込む付加反応との関係を調べたところ,系のΔGの値がその系で観測される光反応の形式を決定する非常に重要な因子となっていることが明らかになった。特に,[3+3]光環化付加反応が進行するためには,系のΔGの値が負に大きくなる必要があることが明らかになった。 2. ナフタレン環2,4位での結合の起こり易さと[3+3]光環化付加反応との関係を整理するために,PM3分子軌道計算により反応に関与する可能性のある1,8-ナフタルイミドのラジカルアニオン,カルボニル基で水素原子を引き抜いて生じるラジカル及びアニオンのスピン及び負電荷の密度分布を計算したところ,カルボニル基で水素原子を引き抜いて生じるアニオンの負電荷の密度がナフタレン環2,4位に局在化しており,[3+3]環化付加反応を導くのに有利な状況にあることが明らかになった。 3. 以上の結果より,[3+3]光環化付加反応は,アルキルベンゼンから1,8-ナフタルイミドの励起一重項状態への電子移動,生じるラジカルイオン間のプロトン移動,生じるラジカルペア間の電子移動,最終的に生成するアニオン-カチオン間の熱的な環化付加反応,という一連の過程を経て進行していると考えられる。また,このメカニズムによって,反応の適応範囲,反応に対する溶媒効果等が非常に合理的に説明できた。
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