金属内包シリコンクラスレートおよび関連化合物を合成し、電子スピン共鳴(ESR)法により内包された金属周辺の電子構造を解明し、新しい分子認識機能を有するミクロボーラスクリスタル系触媒開発のための基礎的研究を行った。さらに、代表的なミクロポーラスクリスタルである金属イオン交換ゼオライトの吸着分子の運動と触媒作用の関連に関する基礎的研究を行った。主要な結果を以下に記す。 1. NaSiを出発物質として高温、高真空下で脱ナトリウム反応を行い、ナトリウム金属内包シリコンクラスレート、Na_xSi_<136>(3<x<10)、を合成した。Na_3Si_<136>に対しては、4Kで13.7mTおよび6.7m丁の等方性超微細結合(hfc)をもつESRスペクトルを観測し、各々Na原子およびNa_2^+に帰属できた。スペクトル強度の温度依存性の解析より、Na原子と伝導帯間のエネルギー差として0.001eVが評価できた。 2. シリコンクラスレート系と炭素クラスタ一系との金属を取り囲む局部構造の相違を検討するために、高圧処理金属内包炭素クラスター(Na_3C60)のESR観測を行った。スペクトル線形、線幅および磁化率の温度変化に基づき、系内の伝導電子の挙動につき検討した。 3. 金属イオン交換ゼオライトの構造と吸着分子の運動の関係をESR法により検討した。例えば、X-およびY-ゼオライト中では、NO_2は回転拡散の運動をするが、Na^+-モルデナイトでは並進運動に伴うスピン交換が支配的になることがわかった。また、Na^+-ZSM-5に吸着したNO_2のスピン交換速度はSi/Al比の増加(即ち、Na^+量の減少)に伴い増加することがわかった。Na^+がNO_2の並進拡散を阻害する結果と考察した。
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