本研究の目的は、特定の物質と選択的に会合する表面を分子修飾により構築する際に重要な修飾層物性の正確な評価とその制御法の確立を行うことである。本年度はおもに水晶振動子マイクロバランス(QCM)を用いた表面質量滴定法により単分子層やポリマー薄膜の酸塩基物性の評価を行った。 種々の鎖長のメルカプトアルキルカルボン酸(HS(CH2)nCOOH:Cnカルボン酸と表記)単分子層をAu(111)/QCM電極上にセルフアセンブリ法で構築した。解離したカルボキシル基と溶液中のカチオンの会合に基づく表面質量の増加が観測された。質量-pH曲線から求めたpKaはC2-C15カルボン酸に対し5.9-6.5で鎖長とともにやや大きくなる傾向があった。いずれもバルクの値より大きく、特にC2カルボン酸では吸着によりチオール基の誘起効果が減じるためpKaのシフトは顕著であった。全質量変化とチオール基の還元脱離量から求めた吸着量との対比から、カチオンは水和して会合していると結論した。種々鎖長のアルカンチオールとの混合単分子層についても検討し、いずれの鎖長のカルボン酸の場合でも解離種間の反発の相互作用があること、またその大きさは数kJ/molであることがわかった。ポリヒドロキシフェニル酢酸薄膜でもCnカルボン酸単分子層のときと同様な質量-pH曲線が得られ、pKaは7.1であった。ポリビニルピリジン薄膜ではpHの増加とともに、脱プロトネーションと共存していたアニオンの脱離がおこるため質量は減少した。pKaは4.8であり、質量変化は膜厚に比例した。すべての試料について、本年度購入したネットワークアナライザにより水晶振動子のインピーダンス解析を行い滴定中の周波数変化が質量のみに依存していることを確認した。また、関連研究として修飾電極への金属錯体や酸素分子の吸着過程をQCMで追跡した。
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