研究概要 |
同位体希釈質量分析法(IDMS)は検量線や比較標準を必要としない精度,正確さに優れた分析法であり,基準分析法(definitive method)として位置づけられている。研究代表者らは,最近IDMSと不足当量分離の原理を結び付けた新しい分析法である不足当量同位体希釈質量分析法(SIDMS)を提案した。今年度は本研究の最終年度であり,超微量の鉄(III)に対する新しい不足当量分離法の開発と,昨年度来検討してきた銅(II)の不足当量分離/ICP-MSを用いたSIDMSを確立し,環境標準試料に適用することによってその実用性を検証した。 1) 超微量鉄(III)の不足当量イオン交換分離法の開発 鉄(III)に対して不足当量のシクロヘキサン-1,2-ジアミン四酢酸(CyDTA)を反応させて錯陰イオンを形成させ,陽イオン交換により未反応の鉄(III)から分離する方法を検討した。5x10^<-7>MのCyDTAによる鉄(III)の不足当量分離と,MIP-MSによる^<56>Fe^+と^<59>Co^+(内標準)の強度比測定から,10ngレベルの鉄の精確な定量が期待できる。 2) 金属交換反応を用いる銅(II)の不足当量抽出とSIDMSへの適用 銅(II)を不足当量のジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(II)により四塩化炭素に抽出し,次いで不足当量のパラジウム(II)により水相に逆抽出する2段階の不足当量分離法を確立した。分離の再現性は極めて高く,10ngレベルの銅のSIDMS定量が期待される。 3) SIDMSによる環境試料中の銅の定量 海底質標準試料(NIES CRM No.12)に大量に含まれる鉄のみが銅の抽出を妨害したが,アスコルビン酸により容易にマスクできた。本法の定量値とNIESの参考値が近い値であることが確認された。
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