本研究では、まず、クロラニルの金属イオン共存下での還元反応を対象として、薄層ラマン分光法による解析について検討した。その結果、均一溶液中と電極近傍でのイオン対生成反応の違いや、金属イオンによる電極反応の違いを明らかにすることができた。 また、有機導電性化合物を構成する電子受容体として知られているテトラシアノキノジメタン(TCNQ)のアルカリ土類金属イオン共存下での電解還元反応に関して検討した。サイクリックボルタンメトリー測定の結果、アニオンラジカルを生成する還元反応は共存金属イオンの影響を全く受けないのに対して、ダイアニオン生成に対応する還元過程が大きく影響され、掃引時には吸着析出物の脱離反応に起因するような2種類の酸化ピークが観測された。この電極反応過程に関しては、電解ESR及びEQCMによって解析を行った結果、その成長機構については、EQCM測定における質量増加の測定から金属イオンとアニオンラジカルが1:2の組成ユニットで成長していることが明らかとなった。また、その電極反応機構として、TCNQダイアニオンの生成をキーステップとして金属イオンを介在したアニオンラジカルダイマーが生成し構造成長するモデルを提出できた。そこで、構造成長の鍵となるダイアニオンの生成に関する確証を得るために、ラマン分光法を用いて析出物の表面分析を行った。その結果、514.5nmの励起においてTCNQダイアニオンの酸化生成物がラマンスペクトルから確認でき、ダイアニオン生成を鍵とする機構に関して実証できた。また785nm励起では主に生成するTCNQアニオンラジカルを捉えることができた。
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