転写制御装置としての細菌鞭毛は、フック構造の完成をモニターしてその情報を細胞内に伝達するフック完成シグナル伝達系と、そのシグナルに応答してFlgM輸送のスイッチをOFFがらONに切り替えるFlgM輸送ゲートの2つのシステムからなりたっている。 1. フック長モニター系:フック完成シグナルを構成的に発生する突然変異体3株を単離した。これらはいずれも鞭毛基体のロッド構造構成蛋白質であるFlgGのミスセンス突然変異体であり、ロッド構造が異常に伸長していることが判明した。この結果は、フック完成のモニター系は、フックの長さではなく、ロッド基部がら形成中の鞭毛構造の先端部までの長さを測定していることを示唆するものである。 2. 二重チェックポイント制御:FlgM輸送ゲートの開閉には、FlhBとRflHの2つの蛋白質による二重の負の制御(二重ロック)かがかっている。フック・基体構造の突然変異体におけるゲート開閉の有無の解析から、FlhBはフック形成初期に、RfIHはフック完成時にロックを開くことが判明し、フック長モニター系は二重のフック長チェックポイント制御を行っているものと考えられる。また、それぞれの制御系の突然変異体を単離し、RfIH系に関わる2つの新たな遺伝子の同定に成功した。 3. FlgM輸送ゲートの基質特異性:FlgM輸送ゲートがFlgM以外の鞭毛蛋白質の輸送制御にも関わっているか否かを検討するため、flhBおよびrflH突然変異体での鞭毛蛋白質の輸送を解析した。その結果、FliC.FlgK.FlgL.FIiD蛋白質の輸送制御にも同様に関与していることが示され、鞭毛形成の最終段階である繊維形成に関与する蛋白質はすべて、輸送スイッチ機構の制御下にあることが判明した。
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