ミトコンドリアDNAにコードされた蛋白質のアミノ酸配列から推定された分子系統樹が、核遺伝子にコードされた蛋白質や、ミトコンドリアの他の遺伝子から推定されたものと食い違う例がこれまでにいくつか知られていた。このような食い違いの原因を明らかにすることは、信頼できる分子系統樹推定法を確立するために必要なだけでなく、分子進化の機構を知る上でも重要である。本研究では、以下の2つの例について検討した。 1) これまで真獣類の系統樹について、ND1だけがミトコンドリアの他の蛋白質遺伝子と食い違う関係を与えていたが、これが種のサンプリングが少ないための単なる統計的なばらつきの結果なのか、あるいは異常な進化パターンの結果なのかを判定するために、真獣類とアウトグループの有袋類のいくつかの種についてND1遺伝子の解析を行なった。ND1遺伝子では、霊長類とげっし類の間で収斂進化が起っていることが明らかになった。 2) ヤツメウナギをアウトグループにとると、ミトコンドリア蛋白質の系統樹では肺魚が条鰭類よりも先に陸上動物に至る系統から分岐したという異常な結果が得られていた。そのために、ヤツメウナギよりもアウトグループとしてふさわしいサメのミトコンドリア全塩基配列を決定した。これをアウトグループにとると、肺魚が陸上脊椎動物に近いという形態学的にも受入れられる系統樹が得られ、先の異常な結果は、解析に用いた置換モデルでは捉え切れていない進化パターンによるものであるということが分かった。
|