高等脊椎動物の染色体DNAがGC含量のMbレベルの区分構造よりなり、この巨大区分構造がバンド領域と関係することを報告してきた。バンド領域はS期内の複製タイミングにも関係しており、遺伝子密度や組換え頻度ならびに放射線感受性等を異にしている。構造上のみならず、機能上のドメインとして理解されるようになってきた。複製タイミングのスイッチ点やGC含量のモザイク境界については、塩基配列レベルで特定できる可能性が高く、境界を特徴づけるシグナル群が存在する可能性も考えられる。この視点に立って、ヒトMHCとその周辺の非MHC領域、ならびにX染色体のX不活化センター(XIC)とその周辺および偽常染色体境界を具体例に解析を行った。広範囲の複製タイミングを解析し、タイミングの転換が見い出された領域については、密に測定することで、タイミングの転換部位を限定し、GC含量の変移との関係や、光学顕微鏡レベルでのバンドとの関係を解析した。MHCクラスIと非MHC領域との境において明瞭な複製時期の差が見い出され、AT-richである非MHC領域がS期の遅い時期に複製することを見い出した。FISH解析を組み合わせて、この部位が6p21.3とp22.1の境界と推定した。XICについては、そのセントロメア側に位置する約250kbの逆位配列の近傍ならびにXIST領域において、複製時期がS期前半から後半へ転換していた。XIST領域は配列の情報が蓄積しており、詳細な解析が行える。XIST遺伝子の3側の部位でタイミングが大きく変移していた。いずれの境界部位においても、数種類の特徴構造が存在していたが、3重鎖を形成する大型のポリプリン/ポリピリミジン配列は特に興味深い。in vitroの研究により、3重鎖が複製フォークの進行を止めることが報告されている。ポリプリン/ポリピリミジン配列のみで複製の制御が可能とは考えられないが、これらの配列がヒト間期核内で3重鎖を形成することを確認している。それらの3重鎖構造は、間期核内で空間的にはセントロメアに近接していた。
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