研究概要 |
本研究の目的は,直列重複して密に連鎖している遺伝子群の塩基配列を,系統ネットワーク法などを用いて分析し,それらの遺伝子座における遺伝子変換に関する分子進化学的解析を行なうことである。本年度は,Rh式血液型遺伝子に焦点をしぼり,すでに発表されているヒトを含む霊長類の塩基配列を解析した。単に配列を多重整列して系統樹を作成すると,複数回の重複と欠失を仮定しなくては説明できない樹形が選ばれたので,遺伝子変換が連鎖する遺伝子間で生じているらしいということがわかった。そこで,系統ネットワークを作成したところ,きわめて複雑なパターンが得られ,エクソンごとにことなる変換が生じているらしいということがわかった。さらに,各サイト比較法を用いて詳細に分析し,遺伝子変換によって塩基が変化を受けたサイトを取り除いて系統樹を作成したところ,過去に1度重複が生じたという系統樹がもっともあり得るという結果を得ることができた。この解析結果をもとにした系統樹の各枝ごとに同義置換数と非同義置換数を推定したところ,多数の枝で非同義置換数の方が同義置換数より高い値になった。これは,中立進化ではなく,なんらかの正の自然淘汰が生じていることを示唆する。また,ウインドウ解析を行ったところ,アミノ酸配列の特定の2カ所で特に非同義置換数が高いことがわかった。さらに,Rh式血液型遺伝子と相同な遺伝子との遺伝子系統樹を作成したところ,Rh式血液型遺伝子と四量体を形成する50kDタンパク質の遺伝子は,脊椎動物の出現前後に遺伝子重複で生じたと推定された。現在投稿論文を準備中である。
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