研究概要 |
本研究の目的は,直列重複して密に連鎖している遺伝子群の塩基配列を,系統ネットワーク法などを用いて分析し,それらの遺伝子座における遺伝子変換に関する分子進化学的解析を行なうことである。我々はまず,発表されている霊長類の塩基配列を解析した。遺伝子変換が連鎖する遺伝子間で生じているらしいので,系統ネットワークを作成したところ,きわめて複雑なパターンが得られ,エクソンごとにことなる変換が生じているらしいということがわかった。さらに,各サイト比較法を用いて詳細に分析し,遺伝子変換によって塩基が変化を受けたサイトを取り除いて系統樹を作成した。この解析結果をもとにした系統樹の各枝ごとに同義置換数と非同義置換数を推定したところ,系統樹の一部の枝で非同義置換数の方が同義置換数より高い値になった。これは,中立進化ではなく,なんらかの正の自然淘汰が生じていることを示唆する。現在論文を投稿中である。 我々は,齧歯類においてRh遺伝子と相同性のあるRh50遺伝子の進化のパターンを霊長類のものと比較するために,マウスとラットのcDNAの全コード領域の塩基配列を決定した。その結果,ヒトとマカクの間では,Rh遺伝子とRh50遺伝子の両方で非同義置換数の方が同義置換数よりも高く観察されたのに対して,マウスとラットの間では,Rh遺伝子とRh50遺伝子の両方で同義置換数の方が非同義置換数よりも高い値を示した。このことは,霊長類と齧歯類の間では自然淘汰のパターンの差異があるということを示唆している(Kitanoら,1998)。また,アフリカツメガエルとメダカのRh50-like遺伝子のcDNAの全コード領域の塩基配列を決定して系統樹を作成し,それらの遺伝子の進化パターンの分析を行なった。その結果,哺乳類のRh50遺伝子とアフリカツメガエルのRh50-like遺伝子はクラスターを形成し,Rh遺伝子とRh50遺伝子の遺伝子重複の時期はメダカ,つまり硬骨魚類と他の脊椎動物との分岐前後に相当するというように推測された(投稿論文準備中)。
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