雌器官と雄器官への進化的に安定な資源投資比は1対1になることが予測されている。しかし雌雄同株植物の場合、資源投資は雌器官(雌しべや果実)に大きく偏ることが普通である。1998年度は、以下のように、花と果実の発達速度を考慮すれば雌に偏った資源投資が説明できることを示した。 【仮定】花・果実が吸収できる資源量はその時点での花・果実の大きさSに比例する。資源の供給速度をPとすると、花・果実の発達速度は、(1)aS<PのときdS/dt=aS、(2)aS>PのときdS/dt=Pである(aは正の定数)。植物は、繁殖期間のどこかで、花生産(雌器官+雄器官)から果実生産(雌器官)に切り替える。 【結果】Pが十分に大きく上記(1)しか起こらないなら、雄器官/雌器官=胚珠一つあたりのコスト/種子一つあたりのコストとなる。果実発達の後期に(2)が起こるときでも、雌器官に大きく偏った資源投資が一般的な解である。 1998年度は、カタクリを用いて、このモデルの予測を以下のように行った。 【検証】宮城県仙台市の青葉山の4集団を対象に、性投資率と果実の生長カーブを調べた。その結果、花への資源投資はオス器官に偏り、花と果実への資源投資はメス器官へ偏っていた。また、どの集団においても果実の生長にシンク制約の期間があることがわかった。そして、シンク制約の期間が長いほど、メス器官への資源投資率が増えていた。以上の結果は、上記の理論的予測と定性的に一致するものであった。
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