窒素競争モデルによって、遷移のメカニズムをさらに詳細に解桁した。その結果は次のようなものであった。 1) 窒素競争によって、葉の寿命の短い陽樹から葉の寿命の長い陰樹へという現実に観察される遷移が再現できる。 2) それぞれの種の最適な繁殖開始時期は、その前駆種を競争的に排除して林冠を構成した時期であり、これは現実に観察される繁殖戦略とほぼ一致する。 3) 光を巡る競争は、窒素競争による遷移の順番を変えることはないが、遷移にかかる時間を長くする効果がある。 こうした予測をテストするために、陽樹であるコナラ、陰樹であるシラカシの実生を用いた競争実験を開始した。これは数年間にわたって行う予定であるが、一年目では予測されるとおり、陽樹であるコナラが陰樹であるシラカシよりも高い成長を示した。 また、予測と異なる遷移を見せる(陰樹が存在しない)日本海側の落葉樹林の成立機構を明らかにすることを試みはじめた。作業仮説としては、急峻多雪なブナ林中では常緑のモミは冬季の雪の移動によって定着できず、それら日本海側の落葉樹林を成立させている、という作業仮説を立てた。それに沿って、新潟県の巻機山中腹のブナ林中に、日光から陰樹であるモミの稚樹を移植した。現地の最深積雪は今年度270cmであり、春の融雪を待ってモミの稚樹の生存率や死亡要因の特定を行うことにしている。
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