研究概要 |
雄アリの社会行動とくに雄間の攻撃行動および性比の問題を実証的に解明するために、問題となる種に関して、コロニーの血縁度測定、種間レベルの分子系統学的解析および繁殖生態の調査を進めているが、今年度下記の成果が得られた。 1. カワラケアリに高頻度で2倍体雄が出現することを発見し、体サイズに明らかな2型を認めた。つまり、2倍体雄(2n=30)は単数体雄(n=15)に比べて全体的に大きいが、形態的な異常は認められなかった。大きさを基準にして判別した2倍体雄について、精子形成過程を組織学的に検討したところ、2倍体雄は単数体雄に比べて明らかに大きい精細胞核を持つことが明らかになった。このことは2倍体雄の精子が2倍体である可能性を示唆する。しかし、2倍体雄に生殖能力があるかどうか、また、生殖能力があるにしてもその子が3倍体となるのかどうかは今後の課題である。 2. 2型の女王と有翅雄を持つウメマツアリ類のミトコンドリアDNA,COI領域について、プライマーを作成し、PCRにより約600bpのDNA断片を増幅した。シークエンスを行い系統樹を作成したところ、形態学や核型分析から得られた従来の知見とほぼ一致した。今回作成したプライマーはハダカアリ属やニセハリアリ属など、他のアリ類についても有効であるので、問題となる属について、順次系統解析を実施していく予定である。 3. 巣内交尾後に女王が巣から分散することが示唆されているハダカアリ類について野外調査を行い、女王は全て交尾後に出巣することを確認した。これらの女王の解剖結果は、一定程度卵巣が発達した時点で飛行することが明らかとなった。 4. 室内実験の結果、ヒメハダカアリの未交尾有翅女王は巣口でセクシュアル・コーリングを行うことが観察された。今後詳しい解析を行う予定である。
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