研究概要 |
雄アリの社会行動とくに雄間の攻撃行動および性比の問題を実証的に解明するために、問題となる種に関して、コロニーの血縁度測定、種間レベルの分子系統学的解析および繁殖生態の調査を進めているが、今年度下記の成果が得られた。 1)カワラケアリの2倍体雄について、成熟分裂過程で染色体数の減数が認められないこと、2倍体雄は単数体雄に比べて明らかに大きい精細胞核を持つこと、フローサイトメトリーにより、2倍体雄の精母細胞、精細胞は単数体雄のそれらの2倍のDNA量をもつことが明らかになった。これらのことから2倍体雄の精子が2倍体であるという結論が得られた。また、エステラーゼ・アロザイムの検討により、3倍体のワーカーの存在が明らかになり、、2倍体雄には生殖能力があることが示唆された。今後交配実験により、2倍体雄の生殖能力の程度について調べる必要がある。 2)2型の女王と有翅雄を持つウメマツアリ類について、ミトコンドリアDNA,COI領域の塩基配列から系統樹を作成したところ以下のことが分かった。マレーシア・インドネシアのウメマツアリ類と日本・朝鮮のウメマツアリ類はそれぞれ単系統群を形成した。ウメマツアリ(短翅女王型)とヤドリウメマツアリは類縁が最も近く、社会寄生種と宿主の類縁関係は近いというエメリーの規則と一致した。本属において、働きアリ型女王が独立に少なくとも3回進化した。 3)2型雄をもつハダカアリ類において、巣内交尾後に母巣に居残る女王は最初に羽化した個体であることが明らかになった。有翅雄は、羽化時には精子形成を完了しており、ただちに多くの雌と交尾するようになるが、1回の授精精子数は数百であった。一方、無翅雄では精子形成は羽化後50日でも継続している。1日当たりの交尾回数は少ないが、1回の交尾で2500ほどの精子を授精した。
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