1.長良川河川敷に生息する多女王・多巣性種のカワラケアリについて、染色体、精細胞核のサイズ、精巣中の細胞核のDNA量および雄の外部形態を調べ、調査した30コロニー中、6コロニー(20%)で多くの2倍体雄が確認された。2倍体雄は成熟分裂において染色体の減数を行わず、その精子は2倍体であった。アロザイムの分析から、3倍体のワーカーの存在が示唆され、2倍体雄に生殖能力がある可能性が高い。2倍体雄の生殖能力については今後実験的に確かめる必要があるが、もし生殖能力があるとすれば、コロニーの存続に大きな影響を与えるなど、進化生態学上重要な問題である。 2.有翅雄と無翅雄の2型雄をもつハダカアリ類において、個体識別による実験・観察から、繁殖時期の初期に羽化した有翅女王が母巣内に残留し、中期及び終期に羽化した有翅女王は分散飛行に飛び出す傾向があることが分かった。一方、雄における平均寿命は、無翅雄で約40日、有翅雄で約30日であった。無翅雄の精子形成は、50日齢を過ぎても継続し、その間授精できることが確認された。無翅雄は他雄を殺し、多数の女王と独占的に交尾するが、早く羽化することが適応的である。雄と女王は互いに影響し合いながら、早く羽化するように進化してきたと考えられる。 3.ミトコンドリアDNAを用いて、日本産、韓国産およびインドネシア産のウメマツアリ類13種の分子系統樹を作成した。日本産および韓国産ウメマツアリ類とインドネシア産ウメマツアリ類は、それぞれ単系統群を形成した。日本産ウメマツアリは、琉球列島から四国南部にかけて生息する4種が南方由来、本州から九州を中心に生息する2種は韓国産ウメマツアリと類縁が近く、大陸由来であるという仮説が提示された。また、職蟻型女王は独立に3回進化したこと、社会寄生種のヤドリウメマツアリは宿主種のウメマツアリ(短翅女王型)と最も類縁が近く、エメリーの法則を支持することを示す結果が得られた。
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