研究概要 |
ミバエ科のソメワケハモグリミバエStenomocera montivaga Ito,1984は葉身の先半部を変色させてからその部分を潜孔するという特徴的な潜孔様式を持つ。このミバエの潜孔様式を詳細に分析し、このような潜孔様式がどのような適応的意義があるかを考察した。葉の先端付近に産卵された卵は、孵化すると同時に葉縁に沿って基部方向に潜り、ある場所で突如、葉縁から葉身へと方向を変え、中肋を横切って、反対側の葉縁に達し、今度は葉先へと向きを変え、葉縁を潜孔した。この潜孔によって区切られた葉身の先半は黄変または紫変することが多かった。潜葉虫のこの中肋横断によって。葉身先半部でどのような化学変化がおこるかを高速液体クロマトグラフィーによって測定したところ、基半部に比べて先半部で顕著な増加が見られる物質が発見された。この物質の分子構造はまだ決定されていないが、この潜孔様式は寄主の化学防衛機構を制御するものと位置づけられる可能性がある。 潜葉虫の潜孔様式の進化を考える基礎資料として、日本産の潜葉虫の潜孔葉の収集を継続している。これまでに日本の自生植物上から、少なくとも1455種の潜葉虫が見られた植物はコケ植物門、シダ植物門、裸子植物門、被子植物門にまたがっていた。潜孔習性のも見られた昆虫は、鞘翅目の5科、膜翅目の1科、双翅目の10科、鱗翅目の29科に及んだ。潜葉虫の仮目録を作成し、それぞれの寄主植物のデータを集計するとともに、植物の分類群ごとの潜葉虫相の目録を作成した。この潜葉虫の膨大なデータセットは、潜孔葉式の進化の基礎資料となるのみならす、潜葉虫の寄生植物利用様式の進化を考えるのに貴重な資料となるはずである。
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