下北半島、長野県、宮崎県串間市幸島、鹿児島県屋久島のニホンザル群についての、野外調査を継続して行った。下北半島の野生群は、この30年余の間に個体数が増加するとともに、その生息域が大幅に拡大していることが明らかになった。幸島の餌付け群と屋久島西部林道地域の個体群は、この10年ほどの期間ほとんど増加しておらず、ほぼこの地域の生息可能な個体数の上限に達しているものと思われる。下記の二地域の個体群を詳細に検討してみると、屋久島では個体数を増加させる群れがいる反面で、衰退し消え去っていく群れもあって、一定の個体数が保たれていること、幸島の場合には一群内で、それぞれの家系ごとに、微妙なバランスを保っていることが明らかになった。下北半島の個体群は、はるかにきびしい環境条件の中で生息しており、その行動域は屋久島のものと比べて数十倍にもなる。増加する個体群は外縁部に次々と行動域を広げており、1960年代に調べられた分布域と比較すると、現在の分布は数倍以上になった。下北半島の場合は、まだ周辺に拡大することが可能な条件にあるが、周辺部で畑の作物を荒らす猿害の問題も深刻になってきつつある。長野県は各地で猿害を理由に多くの群れが駆除されており、継続的な資料が使える群れは、地獄谷の餌付け群のみである。そこで上信越研究林、木曽研究林地域を含め、南安曇郡や下伊那地方をも含めて、野生群の調査を行った。そのいずれの地域でも、ニホンザル野生群の周辺への分布拡大傾向が確かめられた。
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