昨年度に引き続き、下北のニホンザルについて調査を行い、個体群全体の近年の分布域拡大についての調査を行った(渡邊、三戸[研究協力者]、松岡[研究協力者])。 下北半島西部の佐井村南部で、下北半島北西部の群れと南西部の群れが、境を接して分布するようになり、戦後ほぼ半世紀にわたって分断されていた二つの個体群が、ふたたびひとかたまりのものになっていることが確認された。北西部、南西部の群れ共に増加しており、なお分布域を拡げている途中であると考えられる。南西部の群れの行動域は狭く、せいぜい数平方キロ程度であるが、北西部の群れの行動域は広く数十平方キロ、あるいは百平方キロ近くもあると推測できる群れもある。そのような違いがどのようにして成り立っているのか、今後の研究課題である。 宮崎県幸島の群れでは、45年余に及ぶ長期継続観察の結果に基づいて、集団内の社会関係、特にボスザルの交代や順位関係の変遷がどのように生起してきたのかが分析された。その結果、このように長期間安定した孤立群ではボスザルの交代が稀であること、前ボスの死亡によってのみ次のボスザルが交代可能であること、交代するボスもほとんどの場合生殖適齢期を過ぎた老齢ザルであること、順位変動はオスメスともに上位の方が変化しにくく、下位であるほど変動が激しいことなどが明らかになった。幸島の群れは最初の一時期を除けば、個体数の変化がほとんどない群れであるが、当初からの家系は全て保たれてきていた(母系のみ確認可能)。しかし今年になっていよいよ順位下位の家系が消滅しかかっている。また、上位家系からはボスザルは出なかったのだが、1999年1月に五代目ボスのノソが死亡し、上位家系の出身であるケムシが六代目ボスになった。しかし、ケムシの母親や兄弟姉妹等はすでに群れの中には数少ない。安定した個体群の中であっても、社会関係には種々の違いがあり、それぞれに異なった影響を与えているらしい。 屋久島の個体群についても、西部林道地域で個体群の調査を行ったが、今年度は短期間の予察にとどまっている。
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