繊毛虫がもつ防御物質の構造と機能について研究を進めているが、本年度、ブレファリズマ(Blepharisma japonicum)がもつ防御物質blepharisminの推定構造式が発表された。Stentorinに類似した構造であるが、p-ヒドロキシベンジル基がさらに挿入されており、従来にない炭素骨格を有している点で興味深い。我々のグループは既にstentorinの合成を達成しているが、その合成法を基盤に、blepharisminの合成を計画した。この化合物に特有なp-ヒドロキシベンジル基をどの時点で導入するかがポイントとなる。具体的には、次の二通りの合成戦略を検討した。1)初期の段階でp-ヒドロキシベンジル基を導入した後、アントラキノン骨格を構築しblepharisminに導く。2)Stentorin合成の中間体を用い、2量化の前にp-ヒドロキシベンジル基を導入しblepharisminに導く。まだ全合成には至っていないが、この研究でその手がかりを得ることができた。今後この合成物および合成中間体の毒性を調べ、構造と毒性の相関について検討したい。 クリマコストマム(Climacostomum virens)は、ブレファリズマと同じ異毛目に属する繊毛虫であるが、これまでのところ、防御のためのエクストルゾームを保有しているという報告はない。しかし、捕食性繊毛虫ディレプタスに攻撃されたクリマコストマムは逃げる行動を示すことから、クリマコストマムは何らかの防御物質を有していることが示唆された。クリマコストマムの抽出成分から、ディレプタスへの致死毒性を指標に防御物質を検索・単離し、NMRを中心に機器分析を行った結果、この毒性物質は新規な化合物であることが分かった。現在、この毒性物質の合成を検討している。
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