研究概要 |
1. ブレファリズマ(Blepharisma japonicum)のもつ色素ブレファリズミン(blepharismin)の毒性……ブレファリズミンと、酸素と光存在下でブレファリズミンから生じるオキシブレファリズミン(oxyblepharismin)を精製し、繊毛虫に対する毒性、光毒性を調べた。ブレファリズミンは様々な繊毛虫に対して強い毒性、光毒性を示したが、ブレファリズマ自身はブレファリズミンに対して耐性であった。また、オキシブレファリズミンにも毒性、光毒性があることが明らかになったが、植物のもつこれらと類似の色素ヒペリシンに比べると、ブレファリズミンやオキシブレファリズミンの特徴は、内在的な強い毒性にある。本研究によって、ブレファリズマは自分自身に対しては毒性がないが、他の繊毛虫に対して強い毒性のある色素をもち、捕食性繊毛虫に攻撃されると色素を放出して逃げる化学的防御の様相が明らかにされた。 2. クリマコストマム(Climacostomum virens)のもつ防御物質の構造と毒性……捕食性繊毛虫ディレプタスがクリマコストマムを攻撃した際、ディレプタスが逃げる行動を示すことから、クリマコストマムは何らかの防御物質をもっていることが示唆されている。クリマコストマムの抽出成分から、ディレプタスへの致死毒性を指標に、この物質を探索、単離した。NMRなどを用い構造解析を行った結果、この毒性物質は、1,3-dihydoxy-5-[(Z)-2′-nonenyl]benzeneで、新規の化合物であることが分かり、この物質をクリマコストール(Climacostol)と命名した。さらに、このクリマコストールの合成法を確立した。 3. ゾウリムシ(Paramecium)のトリコシスト(trichocysts)の防御機能……ゾウリムシのトリコシストは、捕食性繊毛虫に対して防御の機能をもつことが、すでに報告されている。本研究では、様々な捕食法をもった繊毛虫やその他の原生動物に対して、トリコシストが防御の機能をもつかどうかを検討した。その結果、クリマコストマムや太陽虫(Echinoshaerium akamae,Echinoshaerium nucleofilum)に対して防御の機能があることがわかった。一方、吸管虫(Heliophrya erhardi)やオオアメーバ(Amoeba proteus)に対しては防御効果があるとは言えなかった。
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