研究概要 |
1.西九州,天草下島の富岡湾砂質干潟において,ハルマンスナモグリ(甲殻十脚目)個体群は1979年以来爆発的に増えた後1994年まで密度は変わらなかった(900/m^2).しかし,1997-1999年に減少し,結局1979年当時の水準に戻った(265/m^2).これに対し,かつて干潟ベントス群集の最優占種であった巻貝イボキサゴは,スナモグリの基質撹拌作用によって新規加入が阻害され1986年にいったん絶滅した.しかし,1997年より復活し始め.1999年には局所的には1979年の平均密度(2000/m^2)にまで回復した.2.スナモグリが凋落した原因として,1995年より急増したアカエイの捕食/基質撹乱作用が疑われた.1999年,アカエイ摂食痕の新規産生速度(0.005/m^2/d)を調査し,スナモグリを568/m^2/d分5年間継続して滅らすと現在の密度になると試算された.これは,今後実証しなければならない.アカエイ摂食痕の急増現象は,有明海周辺の多くの砂質干潟で最近記録されている(広域的トップダウン効果).3.富岡湾干潟においてアカエイの摂食作用によりスナモグリが最も滅ったのは中潮帯であり,ここはイボキサゴの新規加入場所と一致する.昨年度までの研究により,スナモグリ密度が160/m^2以下になると干潟表面への砂の再堆積速度が稚貝の新規加入を阻害しないことが分かっている.4.富岡湾干潟へ流入するイボキサゴ幼生のソースは天草下島東海岸の地域個体群であり(昨年度までの結果),2日以内の短期間に3.6m/sの強い引潮に乗って一挙に輸送されてくることが本年度に明らかになった.これは,スナモグリのような長期浮遊型幼生(3-4週間)が海水の平均流動場に捉えられ,有明海から富岡湾干潟には到達しないのと対照的である.5.結局,以上のようなメタ個体群地域分集団間での幼生のソースーシンク関係を通して,個体群爆発-絶滅-回復が有明海周辺の複数砂質干潟で起きたことが明らかになった.
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