本研究の目的は、樹木個体群の構造と機能量の変化を、その推定方法を開発し、過去数十年以上にわたって復元することである。特に、針葉樹の単純同齢林に着目し、林分の個体密度、個体の器官別現存量、そのサイズ分布、林分現存量、個体の成長量とその分布などを、経年変化も含めて推定する。枯死・分解などによってすでに消失してしまった量の推定は、方法がなく、これまでほとんど試みられていない。本研究では、これが可能であることを具体的に示すとともに、復元された構造と機能量の変化を用いて、気候温暖化がこれまでに森林生態系に及ぼした影響の評価が可能になることを示す。本年度は森林の構造と機能量の復元法の開発を行った。まず、過去の任意の時の樹木個体密度を復元する方法を確立するために、二種類の方法を作り比較した。第一の方法は、樹木個体群が常に非常に密な状態で発達し、自己間引きの法則にしたがって成長しているとする仮定に基づく。第二の方法は、樹木の平均の太さと高さの間の関係から、その個体群の密度の情報を取り出そうとするものである。後者が現存する林分の実測値に近い値を与えた。前者は過大評価となった。また、手元にあるダフリアカラマツのデータを用いて、個体群レベルの成長量、呼吸量などの機能量を試算した。個体群密度の推定値は、林分全体の機能量の値にあまり影響しないことが明らかになった。来年度は、開発した方法をさらに吟味し、他の樹種の個体群への適用可能性を検討する。また、一つの林分についての詳細な林分発達復元を行い、方法の有効性を示す予定である。
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