1.和歌山県白浜町の京都大学理学部付属瀬戸臨海実験所付近の岩礁性潮間帯で、ムラサキインコガイとヒバリガイモドキの2種の二枚貝床の生物群集の調査を行った。1997年4月より3ヶ月おきに、各種の二枚貝床の上部・中部・下部でそれぞれ3つづつの方形枠(5cm×5cm)を使い、存在した全ての動物を採集した。その結果、(1)潮間帯上・中部に位置するムラサキインコガイの二枚貝床では、個体数においては微小二枚貝類・等脚類・フジツボ類がこの順で優占し、重量では多毛類・フジツボ類・腹足類が優占。(2)一方、潮間帯下部にあるヒバリガイモドキの二枚貝床では、個体数・重量ともに多毛類が圧倒的に優占していることが明らかになった。(3)このパターンは四季を通して変わらないこともわかった。 2.2種の二枚貝床生物群集の両方で数的に優占していた多毛類のセグロイソメとウスズミゴカイについて、食物選択性の室内実験を行った。その結果、(1)セグロイソメは、二枚貝床の空隙に生息して活発に動き回る等脚類や端脚類に対しては殆ど摂食行動を示さず、もっぱらヒバリガイモドキ・ムラサキインコガイ・イワフジツボ・クロフジツボなどの固着性動物をこの順に選択的に好むことが明らかとなった。(2)ウスズミゴカイでは、上記の固着性動物を生きた状態では全く摂食せず、摂食行動も示さなかったが、殻を取り去った軟体部を与えた所、それを摂食することが明らかとなった。また、活発に動き回る等脚類や端脚類の死体に対しては摂食行動を示したが、生きた状態の個体に対しては全く摂食行動を示さない、という事実も確認された。(3)つまり、二枚貝床生物群集で優占的な2種の多毛類の摂食習性は全く異なり、セグロイソメは固着性動物を生食する捕食者、ウスズミゴカイは動物の死骸を摂食することが明らかとなった。
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