この研究では、生物群集の2大基本構造である食物連鎖関係と住み込み連鎖関係を結合させ、群集構造の新しい認識方法を探ることを目的とした。岩礁性潮間帯の二枚貝床群集を対象として、食物連鎖と住み込み連鎖及びその相互関係を室内及び野外実験によって明らかにしながら、両連鎖を結合させた新たな相互作用網の描出様式を定式化させるための方法論を模索した。その結果、1.和歌山県白浜町の岩礁性潮間帯のムラサキインコガイとヒバリガイモドキの2種の二枚貝床群集の組成と、各種個体数の変動は、二枚貝床の密度や被度の年変動に応じて変化しており、二枚貝床の構造と密接に関わっていることがわかった。2.二枚貝床生物群集の主要構成種の、二枚貝床内での行動観察と室内実験によって、各種の食物選択性と捕食者・乾燥回避行動を明らかにした。また、二枚貝床内に蓄積されている砂泥の有無によって、各構成種の行動が異なり、また2種の二枚貝床内での摂食行動や捕食者回避行動も異なっていることがわかった。3.二枚貝床群集の地理的な変異を調べた結果(和歌山県白浜町、宮崎県宮崎市青島、沖縄県石垣島名蔵湾)、ヒバリガイモドキの二枚貝床の密度も被度も大きく異なっており、それに応じて群集組成や各摂食ギルドに属する種の密度も大きく異なっていることが、明らかとなった。4.この二枚貝床群集について、2つ以上の捕食〜被食関係の直接的な連鎖を介した間接的な相互作用と、住み込み共生を介した間接的な相互作用を区別し、捕食〜被食関係の食物網の中に、住み込み共生を介した間接的な相互作用を加えることによって、群集の中での各種の食と住を合わせたニッチを描出でき、食物連鎖と住み込み連鎖をつないだ相互作用網の構築が可能となり、さらに、食と住を含んだ総合的な群集像を描くことができることがわかった。
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