昆虫の真社会性進化の研究は殆ど行動学的ないし遺伝学的研究に限られており、進化を許した生態的条件の研究は極めて少ない。本研究では伊藤が蓄積してきたデータと初年度に集めたデータを個体群統計学的手法で解析し、不妊カストの産出条件や多女王制成立の条件を解明することをめざした。本年度の結果は次の通りである。 1.オキナワチビアシナガバチの多女王制成立の個体群統計学的条件 (1)沖縄本島で6年間調べた創設雌数、巣の生存率・再建率、次世代繁殖雌を出せた巣の数などの全データを整理・解析した。その結果、巣は捕食や台風により高率で失敗するが本種は巣の再建能力が高く、これを考慮すると50%近くの巣が次世代を産出でき、その結果創設巣数は毎年安定していることがわかった。 (2)個体マークした創設雌の殆ど全ては8月末までに死亡した。次世代繁殖雌の大部分はこのあとで生まれるので、本種は事実上2化性であることが初めて判明した。 (3)沖縄本島では本種の約50%の巣が多雌創設され、創設雌数が多いほど、巣の生存率、再建率が上昇すること、多雌創設巣は働きバチを早く羽化させること、また同種他個体による巣の乗っ取りを避けられることが判明した。これらが本種の多雌創設性および1巣で複数の雌が繁殖に加わる性質の進化と維持に関係していると考えられた。 (4)以上の結果について英文論文を作成中で、表は完成した。この表を見て意見をいってもらうため、中間報告書を印刷し、国内外の間連研究者に送付した。 2.真社会性アブラムシの不妊カスト率と個体群統計学的条件 沖縄県および鹿児島県下のタケツノアブラムシの調査を実施し、従来のデータとあわせて解析を開始し、論文執筆を開始した。
|