研究概要 |
研究期間の最終年にあたり,以下の研究を行った。 1,細胞レベルでのレピジモイド作用:レピジモイドは胚軸の伸長を促進し,根の伸長を阻害するという二面的効果を示す。そこで,シロイヌナズナのロゼット葉から調製した粗レピジモイドを用いて,上記2器官の細胞長への効果を測定した。その結果,胚軸の細胞に対しては,細胞伸長を促進したが,細胞分裂に対しては効果が認められなかった。また,根の細胞に対しては細胞伸長と細胞分裂の両方を阻害した。その場合,根は壊死を起こして褐変し,基部より数本の側根を分化した。 2,粘質物分泌系統と非分泌系統の比較:シロイヌナズナの突然変異系統を用いて,種皮の隆起構造を持ち,かつ粘質物を分泌する系統(gl1)とこれらの表現型を持たない系統(gl2)からレピジモイドを抽出,精製しHPLCにより定性,定量を行うとともに,ケイトウテストにより生理活性を比較した。その結果,gl2系統はgl1系統よりも少ないが1/2程度のレピジモイドを分泌することが分かった。このことから,レピジモイドは必ずしも種皮の隆起構造のみにに含まれるものではなく,種皮全体または種子内部から分泌されることが示唆された。 3,ナズナ種皮のレピジモイド様物質:シロイヌナズナと近縁のナズナ及びタネツケバナの種子から分泌される物質をHPLC及びTLCにより分析した。その結果,両植物種子からはシロイヌナズナよりも大量のレピジモイドが分泌されることが分かった。このことから,レピジモイドはアブラナ科植物に普遍的に含まれている生理活性物質であることが強く示唆された。 4,4年間におよぶ本研究からレピジモイドの生合成と生理活性の全容がほぼ明らかになったが,生合成機作,作用機構の全面的解明には至らなかった。そこで,今後はレピジモイド感受性及び不感受性突然変異体を単離し,分子遺伝的手法を用いて,特に二面的生理作用を解明すべくさらに研究を続けていきたい。
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