植物幼茎は水ストレスにより阻害された生長の適応回復を図るが、この過程はオーキシンに強く依存する。ミトリササゲ胚軸伸長城切片では生長の適応回復に先立って、木部だけでなく表面のプロトンポンプも活性化されることが明らかになった。この活性化は、言うまでもなくIAAに強く依存する。このうち、表面ポンプは表皮細胞壁の酸性化により壁物性に影響し、その力学的降伏特性を変化させることで伸長生長の調節をはかることをこれまで示してきた。細胞壁の力学的降伏を規定するのは、細胞壁の展性、膨圧および臨界降伏圧である。このうち膨圧と臨界降伏圧の差が実効膨圧と呼ばれ、璧降伏の駆動力である。適応回復過程で、コンダクタンスといえる展性と、駆動力である実効膨圧とがどのように調節されるかについては定説がない。そこで、プレッシャー・ジャンプ法でストレス適応前後の壁障伏特性の経時観測を行った。それによると、以外になことに生長回復時に壁展性の増大は見られず、かえって減少した。一方、実効膨圧には生長回復の経時変化を説明する明確な増大が見られた。この生長回復は、多くの生長調節で考えられているような壁コンダクタンス(伸展性)の調節によるものではなく、もっぱら壁降伏の駆動力の調節によって起こると結論できる。駆動力である実効膨圧の調節は、膨圧ではなく臨界降伏圧の調節による可能性が極めて高い。グリセリン処理した胚軸切片で、pHに依存した臨界降伏圧の調節に関わるタンパク質の存在が示唆されており、プレシャープローブによる生長回復時の膨圧の直接計測が次の課題となる。
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