植物の形態形成は個体発生のプログラムにより規定されているだけでなく、環境からの刺激によっても大きく影響を受ける。これら多元的な要因からのシグナルは形態形成過程においてどのように統御されているのであろうか。本研究では、モデル植物シロイヌナズナの転写因子ATHB-1およびATHB-2に焦点をあて、それぞれが中心となる転写制御ネットワークを解析し、環境刺激応答と形態形成の係わりを明らかにすることを試みた。 まずATHB-1およびATHB-2を中心とする転写制御ネットワークの解析をおこなうために、それぞれの転写因子の転写活性化能が人為的に制御され得るキメラ蛋白質遺伝子(HDZip1-VGおよびHDZip2-VG)を作成し、形質転換シロイヌナズナに導入した。これらの形質転換体を利用してATHB-1およびATHB-2の転写ネットワークの下流の遺伝子および直接の標的遺伝子を検索したところ、ATHB-2が自分自身の遺伝子を認識し発現の自己調節を行っていること、およびATHB-5がATHB-1下流の転写制御ネットワークに組み込まれていることなどが明らかになった。 さらにATHB-1およびATHB-2を異所的かつ構成的に発現する形質転換体およびアンチセンス手法により内在性遺伝子の発現が抑制された形質転換体を作製し、それらの形態を観察した。その結果、ATHB-1が葉の形態形成の制御に関わっている転写活性化因子であること、ATHB-2自身が転写抑制化因子として働いている可能性が高いこと、ATHB-2による胚軸伸長の制御はPhyBによる赤色光条件下での胚軸伸長抑制の経路とは別の作用点をも有しshade avoidance反応に強く係わっていることなどが明らかになった。
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