本プロジェクトでは、細胞性粘菌を用い、細胞分化や形態形成における細胞間相互作用の果たす役割を明らかにするために、細胞外シグナルの変換素子として働くMAP-キナーゼ(ERK2)に注目して、その活性化にどのような細胞外シグナルが関与しているかを解明することを目標とした。また、ERK2を欠損する突然変異株を用いて、この表現型を抑制する遺伝子の単離を目指した。 成果 1)ERK2はサイクリックAMP(cAMP)によって活性化されることを既に報告したが、この活性化は癌遺伝子rasおよびcAMP-依存性タンパク質キナーゼ(PKA)によって調節されていることを明らかにした(文献1)。 2)ERK2を活性化する新しい細胞外シグナルとして葉酸が働くことを明らかにした。また、この活性化は発生段階で調節されており、増殖期および細胞分化が開始する時期に高い活性化が起こることが分かった。さらに、この活性化にはG-タンパクのアルファ・サブユニット4が不可欠であることを明らかにした(文献2)。 3)細胞分化の転換を試験管内で可能にする実験系を確立した。細胞性粘菌には予定柄細胞と予定胞子細胞が分化するが、細胞外シグナル分子の一種類であるDIFとcAMPのアナログ(8-bromo cAMP)を用いることにより、予定胞子細胞を予定柄細胞へ転換させることが可能になった(文献3)。 4)erk2サプレッサー遺伝子の単離 ERK2を欠損する突然変異株を用い、挿入突然変異法により2種類のサプレッサーを単離した。その一種から、遺伝子の回収に成功したが、既知のタンパク質に相同性を示すものはなかった。これについては現在解析中である。
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