研究概要 |
哺乳類における種々の成長因子やホルモンの作用、また高等植物における植物ホルモンによる生長調節や頂芽優勢の例に見られるように、他の細胞で作られた物質が別の細胞に影響して、増殖、生長、分化を支配する現象はよく知られている。このような細胞間相互作用を仲介する物質は、まず細胞に受容され、細胞内シグナルに変換され、細胞内の標的分子へと伝達される本プロジェクトは、細胞性粘菌を用い、細胞分化や形態形成における細胞外シグナルの重要性に注目し、その普遍的なシグナル変換素子として、MAP-キナーゼERK2が機能しているのかどうかを明らかにすることを目的とした。科研費の交付の期間内には、胞子の成熟に関与する葉酸類似の構造式をもつmonapterin、予定柄細胞特異的な遺伝子の発現に必須因子DIF-1、またこれに拮抗するアンモニアなどの効果がERK2によって仲介されいるのかどうか、仲介されているならばras依存性なのか、ヘテロ3量体G-タンパク依存性なのかを調べる。成果:(1)葉酸は生長期の細胞を誘引し、且つアデニリルシクラーゼを活性化する。この活性化にはERK2が関与しており、ヘテロ3量体G-タンパクを介して起こることを明らかにした。また、α4-サブユニットが関与していることを明らかにした。さらに、葉酸誘導体のmonapterinもERK2をα4-サブユニットに依存的に活性化することを明らかにした(JBC,272:23690-23695,1997)。(2)ERK2の活性化にはrasは阻害的に、PKAは促進的に働くことを明らかにした(JBC,272:3883-3886,1997)。(3)DIF-1もアンモニアもERK2活性には影響を与えなかった(未発表)。(4)DIF-1と膜透過性のcAMPアナログ、8-ブロモcAMPは予定胞子から柄細胞への転換を促進することを明らかにした(Com.Biochem.Physiol.118A:841-845,1997)。
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