1.タバコサイクリンD遺伝子の発現様式を解析した。昨年度、タバコから4種類のサイクリンD遺伝子(NtcycD3)の単離に成功したことから、本年度は各遺伝子の発現様式を解析した。まず、同調培養系を用いて細胞周期に伴う遺伝子発現を調べた結果、NtcycD3-1とD3-3は細胞周期に関わらずほぼ一定に発現が見られたが、D2-2aとD2-2bではG2期からM期、またはG1期からS期に発現が高くなることが明かになった。動物のサイクリンD遺伝子は細胞周期に依存せず、成長因子に依存して発現することから、植物のサイクリンD遺伝子は動物とは異なる発現制御を受けることが示唆された。また、D2-2aとD2-2bは植物ホルモンに応答して発現することも明かになり、成長調節因子からサイクリンD遺伝子に至るシグナル経路の存在が示唆された。2.タバコサイクリンDはCdc2と結合し、Rbタンパク質をリン酸化することを解析した。動物ではG1期からS期の移行にRbタンパク質が抑制的に働いており、サイクリンD/CDK(サイクリン依存性キナーゼ)がRbタンパク質をリン酸化することでS期進行の準備が開始される。これまで植物のRbタンパク質をリン酸化するCDKの実体は不明であったが、私たちはサイクリンDとCdc2の複合体が、少なくてもin vitroでタバコRbタンパク質をリン酸化することを証明した。すなわち、バキュロウイルス発現系を用いて4種類のタバコサイクリンDとCdc2を発現させたところ、すべての組み合わせで複合体を形成し、Rbタンパク質をリン酸化する活性を示した。今後は植物細胞内でも複合体を形成し、キナーゼ活性を持つことを証明したい。 本研究により植物では初めてRbタンパク質をリン酸化するCDKの実体が明かになり、今後の植物細胞周期研究に大きく貢献する知見が得られた。今後サイクリンDとCdc2複合体の活性化の制御機構が明かにされることによって、植物ホルモンによる細胞分裂誘導の分子メカニズムが解明される道筋を開くことが期待される。
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