植物の茎細胞の伸長成長速度は、細胞壁の伸展性と細胞の浸透ポテンシャルによって主として規定されている。白色光は、細胞壁の伸展性を低下させることによって茎細胞の成長を抑制することは多くの実験的証拠によって確かめられている。一方、白色光が細胞の浸透ポテンシャルを上昇させることによって茎細胞の成長を抑制する可能性があることが報告されている(Parvez et al.1996)。本研究では、光による浸透調節の仕組みを植物芽生えの成長と関連づけて解析を行った。 白色光はトウモロコシの幼葉鞘の伸長成長を強く阻害したが、第一葉のそれは促進した。幼葉鞘の浸透ポテンシャルは白色光照射で上昇したが、第一葉では顕著に低下した。浸透ポテンシャルの変化と幼葉鞘および第一葉の成長速度の変化との間には高い相関が認められた。幼葉鞘および第一葉各部域の総浸透物質量は各部域の可溶性糖量と相関していた。白色光照射は、幼葉鞘細胞壁に結合している酸性インベルターゼ活性を低下させた。一方、第一葉のインベルターゼ活性は光によって著しく上昇した。インベルターゼの活性は幼葉鞘および第一葉における可溶性糖量と高い相関があった。EDTA存在下では幼葉鞘基部切断面からスクロースが遊離するが、EDTA非存在下ではそのようなスクロースの遊離は認められなかった。このことは幼葉鞘基部切断面から遊離するスクロースは、師管由来のものであることを示している。光は幼葉鞘基部切断面からのスクロースの遊離を促進したが、その遊離糖量は第一葉に蓄積される可溶性糖のわずか5%にすぎなかった。これらの実験結果から、光は幼葉鞘のソース活性を調節することによって、発芽直後のトウモロコシ芽生えにおける糖の分配を調節することによって浸透調節を行い、それによって幼葉鞘および第一葉の成長を調節していることが示唆された。
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