変異体植物を用いた研究により、ブラシノステロイドは植物の成長制御に深く関る内生の植物ホルモンであることが明らかになってきた。本研究では、ブラシノステロイドの生合成に関る様々な変異体が知られているアラビドプシス(Arabidopsis thaliana、和名シロイヌナズナ)におけるブラシノステロイドの生合成機能を明らかにする目的で、以下の課題について追究した。 1)アラビドプシス個体を用いたブラシノステロイドの代謝実験系の開発 代謝実験系の検討においては、1.植物体に直接標識ブラシノステロイドを注入する方法、2.植物体にマイクロダイアリシス法を改変したマイクロインジェクションにより標識ブラシノステロイドを注入する方法、3.フラスコ中で個体を液体培養し、培地に標識ブラシノステロイドを加える方法、について検討した。その結果、当初変換効率が高いことが期待されていた2の系においては全く変換が認められず、3が最も効率良いことが明らかになった。1においてはわずかに変換が認められた。 2)新規ブラシノステロイド生合成変異体の解析 新規の矮性変異体をT-DNA挿入変異体の中に見出し、ブラシノステロイド生合成との関係について追究した。まずブラシノステロイドの処理による回復実験では、カスタステロンは高い活性を示したがティファステロールの活性は低かった。また内生ステロイドの定量実験では、ティファステロールまでの生合成中間体は正常な値を示したが、カスタステロンのレベルは低かった。これらの結果から、本変異体においてはティファステロールよりカスタステロンへの変換を触媒する酵素遺伝子に変異が存在することが示唆された。当該遺伝子は、いずれの植物からも未だクローニングされていない新規の遺伝子であることが予想された。そこでクローニングを試みたが、変異植物体中に挿入されたT-DNAが複数個存在することから未だクローニングには成功していない。更にクローニングを試み、遺伝子情報が明らかになった段階で、学術誌で成果を発表する予定である。
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