本年度が最終年度であったが、材料となるナメクジウオの飼育が軌道に乗り始めたところである。毎年自然産卵個体を多数集め、幼生を使った研究成果もあげている中国・チンタオ海洋研究所へ行き、飼育下の産卵現場を見学し、来年度の産卵に備えることにした。一方、淡青丸で採集した成熟親個体は、東京大学附属臨海実験所で自然産卵した。1腹のみであったが2週間の幼生の飼育ができた。今後、チンタオでの情報も参考に、産卵を可能にさせる基礎ができた。下垂体の原基と考えられているHatschek's pitからの下垂体ホルモン類似物質のクローニングは、PCR法では成功しなかったため、サブトラクションライブラリーから全cDNAの配列を決定する方法に変更した。少量の組織からのcDNAライブラリー作成法に則って、λZAPライブラリーを作成した。DNAが少ないため、PCR法によるcDNAライブラリーを作成してプローブとし、スクリーニングをおこなった。約500個のクローンを取り、配列を解析中である。カルシウム結合タンパク質などの一般的機能タンパク質の他に、アミロイド、フェリチンなどの特殊タンパク質が見つかっている。下垂体タンパク質はまだ見つかっていないが、成長因子がナメクジウオで初めて見つかった。ペプチドホルモンが見つかってくれば、すでに集めたほぼ毎月の凍結個体サンプルでin situハイブリダイゼーション法で、下垂体ホルモンの発現時期と部位を調べ、固定サンプルで生殖腺を中心とした組織変化を同定する予定である。以上のようにHatschek's pitにおける下垂体ホルモンまたはホルモンの存在状況が全て明らかになれば、現在着目されているナメクジウオのホメオボックス遺伝子と神経系の発生に非常に関連していると考えられているHatschek's pitの果たす役割が明らかになると期待される。
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