研究概要 |
軟骨魚類は顎口魚類としては最も下等で、下垂体の進化を考える上で重要な位置にある。近年、分子生物学の発展によりホルモンの構造が明らかになりつつあるが、一方で形態学的な研究はほとんど行われていない。そこで、まずトラザメ(Scyliorhinus torazame)を用いて腺下垂体ホルモン細胞の局在性を調べた。 1)サメ-GH抗体陽性のGH細胞は前葉主部の腹壁と背壁の両方に分布していた。 2)サケ-ソマトラクチン抗体で中葉に反応が見られたことから、板鰓類でもソマトラクチンが中葉に分布する可能性が示唆された。板鰓類におけるGH細胞とソマトラクチン細胞の同定は、本研究で明らかになった成果である。 3)サメ-プロラクチンは今だ単離されていない。チョウザメ-プロラクチン抗体もサケープロラクチン抗体も無効で、サメのプロラクチンは他の顎口魚類と構造がかなり異なることが予想された。 4)哺乳類やサケのゴナドトロピン(GTH)とサイロトロピン(TSH)の抗体はいずれも腹葉の管状構造の外側細胞に反応した。糖蛋白質ホルモンの糖鎖の検出のためのビオチン化レクチンを用いた結果も同様であった。Doddら(1960,1961)の一連の研究によって腹葉でのGTHとTSHの存在が示唆されているが、今回反応のあった細胞は1種類のみである。したがって、板鰓類では、GTHとTSHが分化していないか、あるいはGTHとTSHが同じ細胞で生産分泌されている可能性が考えられる。現在、アブラツノザメの腹葉からゴナドトロピンの単離・構造決定を進めており、上記の問題は生化学的なアプローチによって解決したい。
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