シロイヌナズナから単離した3種の液胞プロセシング酵素(VPE)のホモログのプロモーターとβglucuronidase(GUS)のキメラ遺伝子を導入したシロイヌナズナ形質変換体を用い、3種のVPE遺伝子の発現組織をGUS染色法によって検出した。α-VPEとγ-VPE遺伝子は根と葉で発現した。葉では、α-VPEとγ-VPE遺伝子ともに葉脈と排水組織で発現した。根では、α-VPEは主根及び側根ともに先端の分裂組織で、γ-VPEは主根全体及び側根の先端部以外の基部で発現した。一方、β-VPE遺伝子は、開花直前の花の花粉で最も強く発現したが、未成熟な花粉では発現しなかった。この花粉成熟過程での、β-VPE遺伝子発現に伴う花粉内微細構造の変化を液胞系を中心に電子顕微鏡レベルで解析した。β-VPE遺伝子が発現していない未成熟な花粉内では、栄養細胞に特有な大型の液胞が顕著であり、ゴルジ体の活発な小胞形成は観察されなかった。一方、β-VPE遺伝子を発現している成熟花粉では、大型の液胞は消失し、細胞質の大部分は種々の膜構造、ゴルジ体由来と考えられる種々の小胞と顆粒が出現した。この顆粒は細胞組織化学法によって脂質であると同定した。小胞体が脂質を取り囲み、脂質の分解と共に膨潤し、小胞体上のリボソームが消失して、この時期に特異的な膜構造になる過程が捉えられた。この膜構造の出現とβ-VPE遺伝子の発現時期に最も高い相関が見られた。更に、開花した花の約内の花粉では、リソソーム様の構造が発達し、自己分解が進んだ。以上。花粉の受粉・発芽に関与する貯蓄型液胞と、受粉しなかった花粉の自己分解に関するリソソーム型液胞の存在を示唆した。この結果を基にし、開花直前に受粉を完了するシロイヌナズナ特有の他花受粉を防ぐ機構における、液胞形質転換の意義という新しい研究課題を進めたい。
|