研究概要 |
本研究は、ステロイドホルモンによる魚類の卵成熟誘起機構の解析を通して、これまでに全く知られていない細胞膜結合型ステロイドホルモン受容体の化学的実体を分子レベルで明らかにする事を目的とした。平成9年度までの研究から、本受容体は3量体型GTP結合蛋白質(G蛋白質)のうち、Gil又はGi2型のαサブユニットを持つG蛋白質と共役している事を明らかにして来た。本年度は、メダカ卵成熟の進行過程における受容体とG蛋白質の発現消失の挙動解析から、これらの共役関係を新たに細胞生物学的観点からも明らかにし国際会議において報告した(1st International Meeting of Rapid Responses toSteroid Hormones;Mannheim,Germany)。また、平成9年度までの研究で既に基本的な部分を確立して来た細胞膜ステロイド受容体の精製法に、さらに改良を加えると共に、本受容体がコムギ胚芽レクチン(WGA)に結合することを明らかにし、精製率をさらに向上させ得た。この改良精製法を用いて、約2kgのキンギョ卵巣(湿重量)から卵成熟誘起ステロイドホルモン結合活性を指標に精製を進め、最終精製画分中に、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、銀染色法で確認できる7本の蛋白質バンドを得た。見かけの分子量は各々35、58、66、95、103、105、109Kダルトンと計測された。本画分中の総蛋白質量は数十ナノグラム以下と推定され個々のバンドのアミノ酸一次構造解析は不可能であったが、この結果から受容体の精製法はほぼ確立されたものと判断した。現在、BIACORE装置を用いて、試料消費が殆どないリアルタイム結合測定法の測定条件を検討しており、これにより10kg超程度の材料からの受容体アミノ酸一次構造解析が可能になると考えられる。以上、本研究により、細胞膜結合型の卵成熟誘起ステロイドホルモン受容体の実体解明の目処が樹立できた。
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