本課題に先立つ研究により、魚類卵成熟誘起ステロイドホルモン細胞膜受容体は抑制性GTP結合蛋白質(G蛋白質)、Giα1またはGiα2、と連関している事を明らかにし、メダカ卵母細胞cDNAライブラリーよりそれらのcDNAを単離した。本課題では、Giα1、Giα2の予想アミノ酸配列を基に3種のウサギポリクローナル抗体を作成した。その内のMl抗体は、G蛋白質を免疫沈降したが、当初予想したようなホルモン受容体活性の共沈降は充分には得られず、親和性クロマトゴラフィーに応用することはできなかった。然し、これに代り、コムギ胚芽レクチンに受容体活性が結合すること、界面活性剤の除去により疎水性クロマトグラフィーが可能なことを見出し、精製法を確立し、電気泳動上、七本のバンドにまで精製を進めた。現在、BIACORE装置を用いて、試料消費が殆どないリアルタイム結合測定法の測定条件を検討すると共に、より大量の材料を用いて、これら七本のバンドのアミノ酸一次構造の解析を進めている。次に、メダカ卵の、卵成熟誘起ホルモンに対する反応性、即ち、成熟能の獲得過程を解析し、成熟能の獲得と卵細胞膜上に検出されるホルモン受容体活性量の増加につよい相関関係があることを明らかにした。又、卵成熟の進行と共に、ホルモン受容体とG蛋白質とが同時に卵細胞膜画分中から消失することを明らかにし、これらの共役関係を強く示唆した。また、ヒラメ卵母細胞を用いて、in vitroで生殖腺刺激ホルモンにより成熟能が誘導されると共に、卵細胞膜画分中のホルモン結合活性が増加することを見出した。これらの結果から、魚類の卵母細胞は、その肥大成長期に当たる卵黄形成期には、卵成熟誘起ホルモン受容体は発現していないが、卵成熟期に入ると生殖腺刺激ホルモンの作用を受けて、卵成熟誘起ホルモン受容体を発現し、卵成熟誘起ホルモン感受性を獲得することが明らかとなった。
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