昆虫の脳にはキノコ体と呼ばれ高次中枢がある。キノコ体は匂いや場所の連合学習に関わることが示唆されている。本研究では、まず第一に、慢性埋込みワイヤ電極法を用いて、自由行動中のゴキブリのキノコ体出力ニューロンの活動の細胞外記録を行い、41例のユニット記録に成功した。記録されたユニットは感覚刺激に応ずるもの(14例)、行動と関連した活動を示すもの(12例)、感覚刺激に応じかつ行動と関連した活動を示すもの(15例)の3つのタイプに分けられた。行動に関連した活動を示すものには、自己受容器から信号を受け、自己の行動をモニターしていると考えられるもの、運動の方向に依存して活動が変わり、前運動中枢から運動指令のefference copyを受けると考えられるもの、行動の開始に0.2-1秒先行した活動を示し、運動の準備や組み立てに関わるものと考えられるもの、などがあった。これらの結果は、キノコ体が昆虫の自発的運動の企画と遂行において重要な役割を担うことを示唆するものである。 キノコ体は約30の構造単位から形成されるが、次にキノコ体を構造単位とキノコ体出力ニューロンの関係を調べた。出力ニューロンには分節状の樹状突起を持ち、特定の組み合わせのモジュールからの信号を伝えるものがあることが明らかになった。これは、各構造単位がキノコ体からの信号出力における機能的な単位を成していることを示唆するものであった。 さらに、キノコ体出力ニューロンの活動と匂い記憶との関係を解析できる実験系の確立を目指し、その第1歩としてワモンゴキブリとクロコオロギの匂い学習能力について調べた結果、どちらの昆虫も非常に高い匂い学習の能力があることが明らかになった。現在さらに、出力ニューロンと匂い記憶との解析を可能とするような匂い学習のパラダイムの開発を進めている。
|