本年度は主にゾウリムシが受容する化学物質の検討と、それら物質に対するゾウリムシの行動反応、膜電位反応について調べた。また、突然変異体作成の準備を進めた。 1.苦み物質としてしられるキニ-ネについて、脱分極性、過分極性のキニ-ネ受容器電位のイオン機構を明らかにした。また、キニ-ネ以外の苦み物質についても検討し、ゾウリムシが3種類のアルカロイド、クロロクイン、ストリキニン、ブルシンに対して化学分散を示すことが明らかとなった。更に、これらの物質に対する受容器電位を記録した。3種類のアルカロイドの受容経路はキニ-ネの受容経路とは異なるものだった。 2.高等動物で神経伝達物質として知られているアセチルコリン、また、そのアゴニストとして知られるニコチンについて検討した。ゾウリムシはアセチルコリンに対して化学集合を示した。集合の原因となる膜電気現象は、投与に伴い生じる一過性の過分極と投与終了後に生じる脱分極からなることが明らかとなった。これらの反応は不安定であり、定量的解析は今後の課題だが、引き続き反応が安定に記録できる条件を検討中である。ゾウリムシはニコチン投与に対して持続性の脱分極を示した。この電位反応は、膜コンダクタンスの増加を伴わず、電位固定条件下でも逆転電位を示さなかった。また、ゾウリムシはニコチンに対して化学集合も化学分散も示さなかった。これらの結果より、ニコチンに対する膜電位反応は原形質膜の表面電位を変化させるものであると結論した。この課題に関して、更に別のアゴニストであるムスカリンについて検討を始めた。 3.キニ-ネに対して化学走性を示さない突然変異体の作成に関しては、大量培養の条件が整い、行動反応を指標にしたスクリーニング法の確立を試みている。更に検討を進め突然変異体の作成を目指すつもりである。
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