前年度に続き、ゾウリムシの外界の化学環境として重要な無機イオンの受容系についてさらに検討をすすめた。様々な無機イオンに対する受容系を調べ、また、突然変異体を用いて遺伝学的側面からKイオン受容系の活性を制御している遺伝子の解明に着手している。以下に結果を示す。 (1)Kイオン受容系の性質をさらに詳しく調べるために、Kイオンに対して行動反応を示さない突然変異体(cnrD)を用いて、比較対照実験を行った。cnrDはKイオン投与に対して、活動電位を発生せず、また、Kイオン依存性Caコンダクタンスも見られなかった。この突然変異体は活動電位に対応するCaチャンネル機能に欠損を持つことが知られているので、Kイオン依存性Caコンダクタンスと活動電位に対応するCaコンダクタンスの制御機構に共通部分があることが示唆された。 (2)Kag突然変異体は、Kイオンに対して著しく反応性を減少したcnrB突然変異体と同じ遺伝子に欠損を持つ。このcnrBはKイオン依存性Caコンダクタンスの不活性化が著しく速かった。Kagは不活性化が遅延することがわかっているので、cnrB遺伝子はK依存性Caコンダクタンスの不活性化の速度を制御していることが明かとなった。また、膜電位固定条件下で生じる、活動電位に対応するCa電流はcnrBもKagも野生型にくらべて小さかった。従って、活動電位発生機構とKイオン受容機構には共通部分があることが示唆される。 (3)淡水の重要なイオンの一つであるNaイオンについて検討した。ゾウリムシにNaイオンを投与すると膜の脱分極が生じた。この脱分極はCaコンダクタンスの活性化を示す顕著な延長を伴った。Naイオン受容機構の性質はKイオン受容機構と同様なものであり、両者の共通性が示唆される。次に、MgイオンとCaイオンについて検討を始めた。行動実験では両イオンに対して顕著な反応が見られるが、これらのイオンの受容機構の解明にはさらに詳細な実験が必要であり、今後の重要な課題の一つである。
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