本研究の目的は、単細胞生物を用いて細胞レベルにおける化学刺激受容機構を明らかにすることである。主な研究成果は次の通りである。1、ゾウリムシのキニーネに対する化学受容機構の解明。膜電位固定法を用いて、脱分極性、過分極性キニーネ受容電位発生機構を解析した。これら極性の異なるキニーネ受容電位はイオンチャンネルの活性化により生じることが明かとなった。また、外液イオン置換実験より、脱分極性受容器電位はCaチャンネルの、過分極性化学受容電位はKチャンネルの活性化によることが解った。2、ゾウリムシのアルカロイドに対する化学受容機構の解明。3種類のアルカロイドの受容経路を調べた。ゾウリムシはクロロクイン、ブルシン、ストリキニンを細胞の前端部に与えると脱分極性の、後端部に与えると過分極性の化学受容電位を発生した。交叉順応を調べた結果、これら3種類のアルカロイドは同一の経路で受容され、キニーネはこれらとは別の経路で受容されることが明かとなった。3、ゾウリムシの外液イオンに対する化学受容機構の解明。ゾウリムシが高濃度K溶液中で示す後退遊泳反応の制御機構を調べた。ゾウリムシは高濃度K溶液を与えると、持続性の脱分極を示した。K依存性後退遊泳に対応するCaコンダクタンスは投与後の脱分極反応の延長として現れた。K依存性Caコンダクタンスの不活性化の時間経過は後退遊泳の持続時間と良く一致した。4、ゾウリムシの化学受容突然変異体の性質の解明。ゾウリムシのKag突然変異体のKイオンに対する過剰な後退遊泳反応の原因を調べた。Kagの発生する活動電位に対応する膜電流は野生型と殆ど変わらなかった。KagはKイオン投与に対して野生型と同様の脱分極反応を示した。K依存性Caコンダクタンスの不活性化はKagの方が野生型より約10倍遅かった。KagはK依存性Caコンダクタンスの不活性化の異常により、過剰な後退遊泳をすると考えられる。
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