本研究では、神経細胞のモデル系としてショウジョウバエ視細胞を用い、細胞内小胞輸送の各ステップが構成する小胞輸送ネットワークの構造と、各ステップの間の繋がりを、各輸送ステップを特異的に制御していると考えられる各種Rab蛋白質を中心に解明しようとした。そのために、各々のRab蛋白質の組織および細胞内分布を検討するとともに、それらのdominant negative変異体が示す形質についての生化学的、微細構造学的な解析を行った。その結果、1.粗面小胞体で合成された光受容膜および軸索領域に局在する蛋白質は、ともにRAB1の制御を受けてゴルジ体へと輸送されること、2.ゴルジ体を出た蛋白質はTGNを経て光受容膜、軸索、ライソゾーム等の方向に別れて輸送されるが、RAB2はこれら全ての方向への輸送を制御している可能性が高く、合成系と分解・リサイクリング系を結ぶRab蛋白質として注目されること、3.RAB11はTGN-光受容膜領域間での輸送を特異的に制御していおり、また、RAB11の機能阻害による形質が光信号変換系の異常の場合と類似していることから、このRABは光受容膜の状態に関する情報を輸送系に伝える役割も担っている可能性があること、4.受容膜領域におけるエンドサイトシスの最初のステップはRAB5により制御されているのに対し、軸索領域でのシナプス小胞のリサイクリングに関わるエンドサイトシスは、RAB5の関与しないこれとは異なったエンドサイトシス系であること、などが明らかとなった。また、5.エンドサイトシス系についての結果のみならず、RAB1の変異に際しても、軸索方向への輸送は確かに阻害されるものの顕著な構造異常は観察されないことから、軸索領域が細胞体領域から比較的独立した代謝系を備えていることが示唆された。
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