中禅寺湖を回遊するヒメマスは、隣接する2つの河川(菖蒲清水川と地獄川)のうち一方(菖蒲清水川)を母川として認識し、産卵回帰する。本研究では、サケ科魚類における母川回帰機構を解明する目的で、ヒメマスを材料に用いて河川水刺激に対する臭覚応答を電気生理学的に検討した。また、人工的なY迷路を用いて、母川選択行動を行動学的に検討した。 材料として、菖蒲清水川に回帰したヒメマスを用いた。(1)電気生理学的検討:母川および隣接する非母川の色々な地点から採取した河川水で嗅上皮を刺激し、嗅球からの脳波応答を記録・解析した。(2)行動学的検討:人工的Y迷路の2つのアームに母川および非母川からの水を導き、ビデオ装置を用いて母川選択行動を観察・記録した。また、嗅上皮を破壊したときの母川選択行動に及ぼす効果を調べた。 (1)電気生理学的検討の結果、(1)河川の色々な地点で、匂い刺激の構成成分が異なることが示唆された。(2)交差順応テストから、ヒメマスが母川および隣接する非母川の河口付近の匂いを互いに識別していることが示された。(2)行動学的検討の結果、(1)母川側のアームに速やかに遡上することが判明した。(2)嗅上皮を破壊すると母川と非母川を識別できなくなり、また、遡上行動が著しく阻害されることが分かった。(3)このように、本研究で開発したY迷路を用いることにより、制御可能なスケールで母川選択行動を実験行動学的に研究できることが分かった。
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