研究概要 |
本研究は,棘皮動物の多孔体で発見された双方向輸送が,繊毛上皮における輸送に一般的に成立つ現象である可能性を検討するとともに,その生物学的意義を,とくに対抗流機構の観点から明らかにするため,いくつかの代表的な繊毛上皮における輸送方向の詳細な検討および対抗流仮説の検証を行うことを目的とする.前者については,従来から繊毛運動の解析が進んでいる材料を用いることが得策であるから,現在研究中の多孔体に加えて,二枚貝の鰓の繊毛上皮および脊椎動物の気管上皮を使用し,後者については,多孔体に焦点を絞って研究を進めるという計画を立てた.本年度は,まず,バフンウニの多孔体から,手術とコラゲナーゼ処理を併用して単離した孔管の繊毛上皮による輸送を,蛍光色素標識人工海水を利用して水流を可視化することにより詳細に検討することを試みた。昨年度の研究結果から,その有用性が認められたスルフォローダミン101を用いて標識した微量の海水をマイクロマニピュレーションにより,孔管の開口端に注入した結果,口管の「反口側」から「口側」に向かう顕著な水流が観察されたのに対し,「口側」から「反口側」に向かう水流は確認できなかった。この結果と,昨年までに得られた炭素粒子懸濁液の運動の解析結果とを総合すると,双方向輸送は粒子のサイズに依存した選択的輸送と考えることが妥当なように思われる。また,水流が,従来の概念からは,繊毛の「有効打」ではなく,「回復打」の方向に輸送されうるという新しい知見が得られた。また,孔管内の繊毛周辺のミクロな領域における流速の分布についても基礎的なデータが得られた.他の繊毛上皮等を用いる研究は,計画より遅れて進行中である.
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