魚類卵の卵膜硬化に関与する酵素であるtransglutaminase(TGase)を研究した。この酵素はタンパク質問のε-(γ-glutamyl)lysine(GL)架橋形成を触媒する。 ニジマスの単離未受精卵卵膜から2種類のTGase、P1、P2を精製した。P1は76および82kDaの2種類のタンパク質から成るが両者のアミノ酸組成に差違はない。P2は76kDaの均一なタンパク質であった。P1は低イオン強度でのみ活性が発現する性質を持つ。ニジマス卵が淡水中で受精し、淡水中で速やかに卵膜硬化することを考慮すればP1が卵付活後の卵膜硬化に重要な意味を持つのであろう。卵付活後TGase活性は卵膜と可溶性の2つの画分にみられた。卵膜のTGaseは、抗P1抗体と反応し、そのサイズは48kDaで、活性も増加していた。一方、可溶性画分のTGaseは抗P2抗体とのみ反応した。P2は卵膜から囲卵腔へと遊離するのであろう。すなわち、付活後Plは卵膜に留まった状態でタンパク質分解酵素によって加工を受け、活性化され、卵膜タンパク質の中の局限された部分を架橋する。一方、P2は囲卵腔に遊離し卵膜全体に作用して卵膜タンパク質全般を架橋するのであろう。硬化卵膜の中には、GL含量が多くProやGln残基の多い特別な領域とそれ以外の2つ領域がある。卵膜硬化はこのような2種類のTGaseの協同作用の結果である。P2 TGaseの遊離はEDTAおよびleupeptin感受性proteinaseによる。 ニジマス卵の卵膜硬化はTGaseによる架橋反応だけによっているのではない。TGaseの基質である卵膜タンパク質(49、56、65kDa)の変化をも伴っている。すなわち、49kDaタンパク質の42kDaへの低分子化反応である。この反応に関与する酵素はEDTA感受性の金属proteinaseであり、それが活性を持つにはleupeptin感受性proteinaseが必要であった。メダカ卵においても基本的に同様なメカニズムで卵膜は硬化する。このように、魚類卵の卵膜硬化は、硬化酵素TGase、EDTAおよびleupepetin感受性proteinase、基質としての卵膜タンパク質の関与する複雑な反応系であり、付活後卵細胞から分泌されるCa^<2+>イオンにより自動的に進行するひとつの"cascade"を成したものである。
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