海馬スライスにおけるテタヌス刺激による長期増強(LTP)は、入力および出力特異性が特徴とされるように限局された領域の現象である。tetraethylammonium(TEA)処理では海馬の広い領域の神経細胞でLTPが誘引されると考えられる。従来より申請者は、TEA処理で発現が増大するクローンを検索しており、3個の神経組織に特異的な遺伝子(KW8、KZ3、HE5)を特定してきた。その一つKW8は、NeuroDとほぼ桓同なbasic helix-loop-helix領域を持つ遺伝子であった。two-hybrid法で検討したところ、この蛋白質のC末側には転写活性作用があり、転写因子であることはほぼ確実であるが、その生理機能は未だ不明である。合成ペプチドを抗原とする抗体を作成しKW8蛋白質の発現を検討したところ、神経系組織ではリン酸化などの修飾を受けていることが明らかになった。(この修飾は培養細胞の過剰発現の実験では、COS細胞ではほとんど見られず、Neuro 2aで確認された。)マウスでも神経細胞の核に局在していることが確認された。最近報告されたNDRFおよびNeuroD2はKW8と相同であることが確認された。マウスゲノムの解析では、成体由来のcDNAは二つのエクソンに由来するが、発生時に別のエクソンが組み込まれる可能性を検討している。発生の制御因子と類似のKW8は成体でも発現している。新たな神経回路の形成はある意味では分化と類似の過程であり、KW8が神経可塑性の制御因子であることが期待される。
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