ヌスビトハギ連には訪花昆虫などによる物理的刺激によって花弁が下がり、雄蕊および雌蕊が花から飛びだし、その後、花弁が元の位置に戻るもの(単純型)と戻らないもの(破裂型)の2つの送粉機構が知られていた。花の構造を調べた結果、破裂型では柱頭のサイズがより大きく、翼弁と竜骨弁が接着し、竜骨弁の接着部位には突起構造が生じるのに対して、単純型の花では、柱頭はより小さく、翼弁と竜骨弁の接着はおこらず、竜骨弁の突起構造も生じないことが明らかになった。さらに発生学的解析により、破裂型の花では、開花数日前に翼弁と竜骨弁の接着が生じ、その後開花までの間に竜骨弁の方が翼弁よりも接着部位から基部までの長さが長くなることにより、2つの花弁基部に張力が生じ、破裂が生じることが判明した。ヌスビトハギ連における分子系統解析の結果と比較したところ、破裂型は単純型から進化したことが明らかになった。また、花内蜜腺は単純型の花で普通に見られるが、破裂型では全く見られないことがわかった。 ナハキハギ属は単純型の花をもつが、花内蜜腺の有無に関しては見解が一致していなかった。そこで花内蜜腺を持つとされる近縁属のタデハギ属、Aphyllodium属、ウチワツナギ属も加えて、組織構造を調べた。その結果、タデハギ属、Aphyllodium属、ウチワツナギ属では明らかにdisk状の蜜腺を雄蕊の基部にもち、その表面には気孔状の構造があることが明らかになった。一方、ナハキハギ属では、調べた4種すべてで雄蕊基部にdisk状の構造が見られなかったが、蜜腺に特有の気孔状の構造のみが認められた。したがって、ナハキハギ属はdisk状の蜜腺構造をもたないものの、気孔状構造のみを痕跡的に持つことが明らかになった。 分類学的に未整理であったオセアニア地域のナハキハギ属で花部形態を詳しく比較し、有効な分類形質を見いだした。その結果、既存の種の輪郭が明瞭になり、新たな種を識別することができた。
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