日本列島において、ジュウモンジシダで葉の大きさは同じであるが羽片の切り出し(NV)の密度は南ほど多く、結果として北(高緯度)では幼形で成熟する傾向が示されてきた(佐藤、1987)。一方で隔離分布する種群のなかで、カラフトメンマとイワカゲワラビは隔離分布する個体群の間でほとんど葉の形態変化が見受けられない。カラクサイノデを含めこれら3種は日本では同じ隔離分布を示すが、ロシアを含め広範囲で見ると、イワカゲワラビは極東に集中分布し、カラフトメンマはやや広くサハリンまで達し、カラクサイノデは千島列島に伸びる分布を示す(佐藤・梅沢、1997)。今回の研究で、葉が冬にも残るすなわち常緑性や半常緑性のシダ植物では、葉に地理的クラインが確認されたが、ミヤマワラビ・ヘビノネゴザなどでは葉の形態変化にはクラインが必ずしも見出されない。ただ小型の単純な形態で成熟葉(胞子葉)となることが示された。葉の寿命や越冬葉の有無について再考すると、夏にのみ緑を保つ(夏緑性)の寿命の短い安上がりの葉をつくることは、葉の基本構造をかえる必要がないともいえる。一方で、冬季に栄養分を根茎に移動すること生育期間が限られることが生育するうえでの不利をもたらすと考えられる。
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