研究概要 |
本研究の目的は、コケ植物ツノゴケ類に共生している共生生物(ツノゴケ類の場合は、シアノバクテリアである。)の種多様性とhostとsymbiontを共生状態から分離し、再度共生状態の再構築を行うことによって、共生現象の解明を行うこととした。今研究の進展によって、コケ植物ツノゴケ類に共生しているシアノバクテリアは、1個体に必ずしも1種でないことが明らかになった。この現象は、ツノゴケ類における共生生物の取り込みの多様性であり、従来の研究報告にない新しい知見であった。しかしこの現象は、試料によって1個体に1種の共生藻のみを取り込んでいるものから、2-3種の共生藻を取り込んでいるものまで、さまざまなものが観察されたため、さらに全国各地からPhaeoceros carolinianus,Megaceros fagellarisに着目して試料の採集を行い、共生生物の取り込みの多様性を検討した。その結果、P.carolinianusでは意外と多数の試料で取り込みの多様性が認められたが、M.flagellarisでは稀であることが明らかになった。共生生物取り込みの多様性では、Nostoc sphaericumの他に、Nostoc sp.1,N.sp.2,N.sp.3など形態的に異なる種が分離された。P.carolinianusを用いて共生の再構築を行った。両者の分離に関して、hostは、Knop培地を用いて胞子を発芽させ成熟個体を形成させ、symbiontは、コケの葉状体中に共生している部分から無菌針によって取り出し、MDM培地で培養した。いずれの分離株も良好に増殖した。再合成に際し、培養液を含んだろ紙上に葉状体の一部を置床し、hormogon stageのsymbiontを添加した。少なくとも一週間以内には共生の再構築が開始され、約1ヵ月後には、symbiontの共生部分が肉眼で観察できる段階にまで発達した。また、再構築の各段階に関して組織切片を作製して観察した結果、hormogon状態のsymbiontは、葉状体腹面に存在する小穴から進入し、細胞間隙で増殖することが明らかになった。
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